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秩父のイチおっぺし本


先日、山の帰りに秩父に寄らせてもらったとき、とても面白い秩父の本を教えてもらったのでここで紹介しておきます。

黒沢和義 著

山里の記憶1

山里の記憶2

山里の記憶3



秩父の林業、農業、採取業、郷土料理などを題材に実際に作業に従事する人、あるいはかつてしていた人に取材し、イラストとそれらの人々の方言まじりの言葉を交えながら説明したユーモラスな秩父民俗大全。ちょうどGWには西武秩父駅仲見世に原画イラスト展示コーナーが設けられていて著者もいらっしゃいました。秩父では1巻、2巻をざっと読ませてもらって、とても面白かったので、後で最新刊第3巻を購入。

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これらの本でとりあげられている人の多くが、かなりお年を召しているし、林業や採取業などは後継者も少ないことを思えば、そうあってほしくないけど、将来は以前ここで紹介した故小林茂さんの秩父民俗三部作に匹敵する「過去」の貴重な資料となるかもしれない。本の前半はカラー刷でイラストと取材対象の「生」の言葉を紹介し、本の後半にそれらひとつひとつの詳細な取材ノートが添えられているのもうれしい。また小林茂さんの執念の凝縮した結晶のような文体に対し、こちらはイラスト、文体ともに軽妙、ユーモラスでとても読みやすい。取材対象のおじさん、おばさんたちの秩父弁をそのまま文字に起こしてあるのも、なんとも味わい深い。この調子で是非4巻、5巻と巻を重ねて欲しいです。

ちなみにタイトルに使った「おっぺす」という方言も、この本で使われていて意味がピンとこなかったので、地元の0号様に聞いてやっとわかった言葉の一つ。0号様にうかがったところ、血気溢れる若者は「おっぺしてえ!」と未来願望形で使い、百戦錬磨のお年寄りなどは「昔はおっぺしたもんだいね」と過去回想形で使うとか使わないとか???
by mobydick67 | 2013-06-18 20:49 | 奥秩父:山歩きと備忘録

小林茂の秩父三部作 未完の完結編


秩父 山の民俗考古

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分厚い読み応えのある小林茂の遺作。特に圧巻なのは第二部。秩父の民具についての哲学的考察である『「木の股」民具考』、父小林據英の奇石コレクションを起点に様々な事象に思いを馳せる『「自然の取り入れ」についての一考察』、師にあたる直良信夫(明石原人の頭骨の発見者。現在ではそれは原人ではなく新人のものとの見方が有力。秩父多摩丹沢 (1972年)という関東地方の山旅を綴った回顧録がある)の業績と交流を回想しつつ人間と狼の関わりの考古民俗学的に考察していく『人類史とオオカミ、狼習俗と信仰についての断章』。このように私的な事柄を起点に語られた第二部は民俗学術書としては奇異な印象も受けるが、こういう卑近なところから民俗学的想念を広げていく趣向が他に類を見ない力強さを生み出していることは間違いない。ただ資料を収集してまとめただけの本にありがちな、どこの誰が書いたかわからないような薄っぺらさはここには皆無。


掲載されている図版も相変わらず素晴らしい。

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出版準備中に急逝されたせいか、この本の第四部は取材ノートがそのまま掲載されていて、第三部との重複も多く、前作秩父 山の生活文化のような完成度はないが、逆にその未完成さ故に彼の考えていたことの壮大さが浮かびあがってくる執念の一冊。
by mobydick67 | 2011-06-14 19:14 | 奥秩父:山歩きと備忘録

奥秩父を調べる

秩父 山の生活文化
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秩父の民具の調査・分析・論考から始まって、「山国」としての文化を文学、交通、資源、近代化といったことを切り口にして語ることで、「秩父とは何か」ということを探った力作。残念ながら500頁以上のこの大著を一人で執筆された小林茂さんは、本作が発行された2009年10月10日を待たず同年9月2日に亡くなられている。

学術書にありがちな読者の存在を無視したような難解さはない。地道な調査分析に続いて、そこから「秩父らしさ」というエッセンスを抽出していく著者の情熱がひしひしと伝わってくる。

民具のなかでも特に多くの頁が割かれている背負子(秩父では「セータ(背板)」と呼ぶことが多いという)の項には写真、美しい図版も多く飽きさせない。

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また「山岳文学にみる秩父 山の風貌」という秩父の山と文学の関係を書いた章では、小暮理太郎、田部重治、原全教、さらに写真家清水武甲らが描いた奥秩父について語られている。またこれまでその名さえ知らなかった関東木材社長でもあった前田夕暮という歌人も紹介されている。調べてみると大滝村川入の入川沿いにある夕暮れキャンプ場に歌碑があるらしいので今度通ったときに覗いてみようと思う。


話はそれるけど、栃本にある田部重治の歌碑の

 栂の峰 いくつか越えて 栃本の 里へいそぎし 旅を忘れじ

奥秩父の山旅の記憶を詠んだいい歌ですね。
by mobydick67 | 2010-12-23 23:08 | 奥秩父:山歩きと備忘録