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夏の音

少し前の遅い梅雨明けの後、午前中時間が空いたので出勤前に上野の国立博物館に寄ってみた。平日の午前中とはいえ夏休みの上野の山は人が多く、国立博物館も古代ギリシャ展目当ての人でごったがえしていたが、そんな人の横をすりぬけて本館の常設日本ギャラリーに向かった。ここは最近でこそ、外国人観光客や刀剣、鎧目当ての歴女たちが訪れるようになったけど、それでもまだまだ空いていて、涼みながらゆっくりするにはもってこいの場所。順路最初のほうの仏像なんかは素通りして、漆や金工、陶、アイヌ、沖縄の装飾品を眺める。展示物は定期的に順次入れ替えられるので、何度来ても飽きることはない。順路最後のほうの近代美術コーナーはあまり好きではないのでいつもは素通りするけど、この時はちょっと珍しいものがあった。

横山大観の富士

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数年前に雑誌かなにかで写真をみたことはあったけど、本物を見るのは初めて。偶然出会ったポップな大観富士。壁際のソファーに腰を下ろして遠目にゆっくり眺める。足を止める人もいなくて、とても贅沢な時間。儲けものでした。


美術館を出て不忍池のほうに降りると、ちょうど蓮の花の見頃。

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蓮の花は蕾が開くときに「ぽんっ」と音がするという。学校も勤務先もこの界隈だったから、こうやってこのあたりをうろうろするようになってはや30年近く経つが、まだその音を聞いたことはない。


蓮の花の音のことを教ええてくれたのはこの本。
芝木好子 「夜の鶴」

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下谷の置屋「鶴の家」に生まれた千賀子は、戦争前夜当時、13歳。私がこの日歩いたのとちょうど逆のルートを、早朝湯島方面から池のほうに蓮の花を見に歩いてくる場面からこの小説は始まる。下谷、湯島天神、東京都美術館、妻恋坂、黒門小学校、お茶の水など馴染みのある場所を舞台に、戦争に向かって暗い影の差し始める下町の花柳界を背景に物語はすすむ。


千賀子が通った黒門小学校は上野広小路の猥雑な一画に今もあり、そのそばの花月のかりんとうが私の密かなお気に入り。駄菓子ではない雑味のない上品なかりんとう。昭和22年創業ということなので件の小説には登場しない。季節によって包装が変わる。今は夏の金魚バージョン。

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かりんとうをポリポリかじってるうちに、今年の夏も無為に過ぎていく・・・・
by mobydick67 | 2016-08-13 11:14
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