奥秩父を舞台にした山小屋小説 「春を背負って」

春を背負って 笹本稜平

甲武信ヶ岳と国師ヶ岳の縦走路のほぼ中間地点にあるという山小屋を舞台に、父の急死でその小屋を継ぐことになった一人の若者の視点から、その山小屋で起こる様々な事件や出来事を綴った短編連作小説。もちろんそんな小屋は実在しないが、小説中の記述からその場所をある程度特定できそうなので地図を見ながら考えてみた。

梓小屋と名づけられたその小屋は、甲武信ヶ岳と国師ヶ岳を結ぶ稜線のほぼ中間から長野側に少し下った沢の源頭にあった。梓川の谷の上部に位置することからつけられた名前らしい。
 近くには二二〇〇メートル台の眺望に恵まれないピークがあるだけで、・・・・・・

国師のタルは梓小屋から二キロほどのところにある主脈上の鞍部で・・・・普通なら片道二時間はかかる。



とあるので、おおよそ東梓と両門の頭の間の尾根の北側、下の地図、鳥瞰図の上赤丸近辺の場所と思われる。

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ここならば唐松久保沢沿いに続く林道(廃道)から途中沢を渡渉して南に尾根伝いに登ることもできるし、山梨側も塩山尾根が主脈にぶつかるところに近いので山梨側に道がつけやすい。小説にあるように山梨、長野の両側に通じる登山道を結ぶポイントとしては絶好の場所かもしれない。そもそも山小屋は、甲武信小屋や雁坂小屋もそうであるように縦走路上でかつそこに取り付くための登山道が何本か交差する場所(あるいはその近辺)にあると営業する側も利用する登山者も都合がいい。でも、もしここに小屋ができてしまうと大弛小屋、この梓小屋、甲武信小屋、雁坂小屋とそんな小屋が縦走路上に続くことになりせっかくの奥秩父の奥深かさが損なわれてしまうような気もするが・・・

小説は春の小屋開けから始まって、小屋閉めを経て次の小屋開けに備えて荷揚げするところまでのほぼ一年を6話の短編をつなぐ構成になっているが、肝心のお話のほうは、ご都合主義的だし、ステレオタイプな人物しか登場しないので退屈極まりない。でもそういうこととは別に奥秩父、特に国師、甲武信近辺の地名や登山道がマイナーなものも含めて頻出するので読んでいてなかなか楽しい。特に、第5話の「擬似好天」という一編は、3月後半の小屋が閉まっている時期に、雁坂から甲武信、この梓小屋を経て川上村に下山する予定の3人パーティが二つ玉低気圧による悪天候で甲武信小屋の冬季開放小屋で停滞を強いられる話で、少しつっこみどころもあって(冬のトイレや雪崩、救助隊のとるルートなど)おもしろい。奥秩父が好きな人には楽しめる一冊・・・かな?
by mobydick67 | 2011-08-17 00:31 |
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