角幡 唯介
空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む
この本を手にとった人で、グラビアにある著者が撮影したどんよりとしたツアンポー峡谷のあまり美しいとはいえない下手くそな写真を見て、興味がそがれて読むことを止めてしまった人がいるとすれば、それは大きな間違いだ。著者が挑んだツアンポー峡谷での冒険には、そんな写真では表現できない何かがある。冒険の対象は、崖に囲まれた急流の渓谷で、これまで足を踏み入れた者がいない流域もわずかにあるという。そこを歩くことを阻むのは地形的要素だけではない。厚い藪、ダニ、そして現場へのアプローチを阻む政治的障壁。下調べから始まって、仕事をやめてまでして、それらに挑んだ著者の軌跡こそが、月並みだが美しい。かといって、重厚長大なわけではなく、フットワークの軽さと軽妙なユーモアも魅力。悲愴感みたいな欝陶しいものが皆無なのもいい。冒険の核心部とそこからの脱出が単独で行われたこともこの冒険の美しさの一要素。
少し前に早稲田大学探検部後輩である石川直樹が朝日にちょっといい書評を書いていたが、身内贔屓ではない。でも、著者が元朝日新聞社員ということもあって、朝日は結構推していて以前も「ひと」欄で取り上げていた。その朝日新聞でも報道があったが、次は北極で歴史探求の冒険に出るらしい。ちょっと楽しみ。
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ホトケの顔も3度まで
なんでも最近は荒川河川敷でタイヤを引いているらしい・・・