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山の仕事

以前読んだ「山びとの記」がとても良かったので、


宇江敏勝 「炭焼日記―吉野熊野の山から」


を読んだ。こちらも名著。

炭焼き、造林小屋で記された山の生活の記録。紀州版「ウォールデン」(ちなみに様々な訳がありますが私は講談社学術文庫版を愛読しています)。朝早くから仕事をして、夜は焼酎をくらって寝る。シンプルな暮らし。暗い衝動。低い目線からみた山の姿。孤独。

ほとんどが仕事の内容、身のまわりのできごと、自分の心を書いた日記のような文章だが、そんななかで慎ましやかな意見が述べられているところがあったので少し長いけど引用してみる。

「あれがわれわれの作品だ、と、私はしばし足をとめ、植林地を眺めながら、三年間の自分たちの仕事の手応えを実感する。むしろ私の作品という思いのほうが強いくらいである。私は現場の最古参で責任者でもあるからだ。山林は誰かのものであっても、仕事そのものは、自分たちのものだと、私は思っている。私の脳裡には、完成された人工林のイメージがある。その完成図を目ざして、仲間たちと語らい、あるいは経営者にたいしても注文を出していかなければならない。
 ところで遊山し、鑑賞する対象として、私は自然林を愛好している。あるいは生物のバランスをたもつうえでの、いわゆる環境保全という点で、自然林を破壊せずに、これを残していかねばならないと考えている。
 しかし生活の必要を満たすという面では、人工林は自然林にくらべてはるかに有益なのである。たとえば一戸の住宅に必要な建材を得るために、その原木を自然林に求めるとすれば人工林の何倍かの面積の山林を裸にしなければならない。だから生産性の高い人工林を育てるということは、いっぽうではその分だけ、天然林が破壊から免れるはずなのである。しかし現実には、利益追求のための人工林化がみさかいなく進んで、自然林が濫伐され、激減しつつあるというのも事実だ。森林資源の保護と利用といううえで、なんらかの規制と計画性が必要だと、私は思う」

1976 年、今から30年以上も前に書かれた文章だが、現在においても正鵠を射ている。関係ないかもしれないが、先日触れたイルカの映画があらためてとても下品なものに思えてくる・・・・
by mobydick67 | 2009-10-26 20:15 |
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