誰も頼んでいないのに、料理を星の数でランク付けしたグルメガイドにはうんざりしてしまう。そんなものは幻想だと笑われても、食物や酒には数値であらわせない何かがあると思いたい。
平松洋子
買えない味
平松洋子は食べたり、飲んだり、料理をしたりするときの気分や空気を書くのが巧い作家だ。ここで、遅れたお中元がわりに、その「売っていない」味を少しだけおすそわけしてみたい。
肴は焙ったイカでいいのは、八代亜紀。酒田の料理屋にもらった蛍烏賊を乾かしたの、これは家に客があったとき自慢して出せると書いたのは吉田健一。どちらも奥歯の深いところにじわりと滲んで広がるうまみを思い描かせ、にわかにそわそわ、あぁ熱燗が恋しい。
焙ったイカも、蛍烏賊を乾かしたのも、どちらも風のお世話になっております。干して、乾いて、水分の抜けたぶん、ぜんたいがぎゅっと凝縮している。噛めば噛むほど真の味が湧き出るので、噛んでも噛んでも、さらにその次を噛みしめる気になる。
なんとまあ、座持ちのよいこと。風は大立役者なのである。
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風――肉、魚、野菜、果物を干す 「買えない味」より
ということで、
残暑見舞い申し上げます。