小林茂の秩父三部作 未完の完結編


秩父 山の民俗考古

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分厚い読み応えのある小林茂の遺作。特に圧巻なのは第二部。秩父の民具についての哲学的考察である『「木の股」民具考』、父小林據英の奇石コレクションを起点に様々な事象に思いを馳せる『「自然の取り入れ」についての一考察』、師にあたる直良信夫(明石原人の頭骨の発見者。現在ではそれは原人ではなく新人のものとの見方が有力。秩父多摩丹沢 (1972年)という関東地方の山旅を綴った回顧録がある)の業績と交流を回想しつつ人間と狼の関わりの考古民俗学的に考察していく『人類史とオオカミ、狼習俗と信仰についての断章』。このように私的な事柄を起点に語られた第二部は民俗学術書としては奇異な印象も受けるが、こういう卑近なところから民俗学的想念を広げていく趣向が他に類を見ない力強さを生み出していることは間違いない。ただ資料を収集してまとめただけの本にありがちな、どこの誰が書いたかわからないような薄っぺらさはここには皆無。


掲載されている図版も相変わらず素晴らしい。

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出版準備中に急逝されたせいか、この本の第四部は取材ノートがそのまま掲載されていて、第三部との重複も多く、前作秩父 山の生活文化のような完成度はないが、逆にその未完成さ故に彼の考えていたことの壮大さが浮かびあがってくる執念の一冊。
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by mobydick67 | 2011-06-14 19:14 | 奥秩父:山歩きと備忘録 | Comments(2)
Commented by yabukogi at 2011-06-15 14:12
こんちはです。
またまた極狭のストライクゾーンにボールが来たんですね。
小林茂先生のような研究者というか研究家というか先人のひたむきさには
それこそ「目玉を剥かれる...」ような驚きを覚えるのですが
こうした著作を世に出してくださる出版社というのも、立派なものですなあ。
ひとつの社会的な使命なのでしょうが、大変なものだと思いますよ。

当地まつもとは、用の「美」を追求したためか、
民「具」というよりどちらかというと民「芸」の方向が顕著でして、
土と汗にまみれた道具というよりも、つんとすまして棚に載ってる、
そういうものが多いように思われてしまいます。
どちらがどうということではなく、それぞれに奥深さがあるのでしょうなあ。
Commented by mobydick67 at 2011-06-16 09:20
先輩、こんちはです。
なんか緩い球を真ん中に投げたら、レフトオーバーのヒットで返された感じです。いつも教えられることの多いコメントをいただき大変勉強になります。

実は、恥ずかしながら、小林茂先生の本を読むまで民具の類に興味がなくあまり気にしことがなかったのですが、
最近は俄然興味が湧いてきて、奥秩父の麓を歩いていても民家の納屋を覗きたくてうずうずしています。

そして、民具でも民芸品でもできれば一つくらいは生活の道具、
あるいは山の道具として取り入れて使ってみたいと思っています。
自分で作れば愛着もわいてなおさらいいんでしょうが・・・
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